• だしと私 2020.10.06

vol.25 Landscape Products 清水彩さん

国内外のおいしいものに詳しく、それぞれの生産者との交流をとても大切に考えている清水 彩さん。仕事でこだわりの食品を仕入れて販売したり、商品開発のディレクションをしたりする一方で、プライベートでは二児の母。子どもたちの健康を考えて、毎日料理をするお母さんでもあります。そんな清水さんのこれまでとこれからの食との関わりかたについて、お話をうかがいました。

生産者を応援することから始まる、食との関わりかた

食の仕事に携わるきっかけとは?

「もともとはファッションのほうが身近で。小さい頃から洋服が大好きで、ファッションの学校に行くんだと思い続けてきました。なんならお昼ごはんのためのお金を洋服を買うのにまわしたいと思っていたくらい。ところが高校生の頃にカフェブームがあって、可愛い空間で食事をすると楽しいという価値観に衝撃を受けたんです。それで、洋服の勉強をしながらもお菓子を作ったり、洋服の課題に食を取り込だりしていました」

ちょうどその頃、雑誌で見た料理人の野村友里さんの活動にも影響を受けたのだとか。

「食をアートとファッションに近い形で見せていて、食もこんなふうに表現できるんだと知りました。食とファッションは遠くないんだと思うようになったんです」

並行して、英語を学ぶことにも熱心だった清水さん。

「苦手だった英語をどうやって学ぼうかと考えて、自分で見つけた外国人の先生の家に通って習っていました。私がお菓子作りが好きなことを先生が知ってからは、毎回、一緒にお菓子を作っていました」

大学卒業後はイギリスへ留学。家をシェアしていた多国籍な友人たちは料理が得意だったこともあり、家でみんなで料理をして食べることが楽しみだったそう。

「イタリア人の友達が『ぼくのパスタ食べにおいでよ』って、よく誘ってくれてたんです。でも作ってもらってばかりだから、私も作りたいと思ったときに、お味噌汁さえも、どうしたらおいしいものができるかわからなかった。照り焼きとか手巻き寿司を作ったりはしていたけれど、お味噌汁って案外難しい。初めて、だしを意識しました」

帰国後は、イギリスの文化やイギリスで知ったオーガニックな食に関わりたくて、ロンドン発のオーガニックコスメブランドのショップに併設していたビーガンカフェで働くことに。

「そこでの仕事は本当に楽しかったけれど、一度離れてほかのことも学ぼうと思い、インテリアショップで食器を担当していました。でもやっぱり食に関わりたいなと思った頃、現在の勤め先であるランドスケーププロダクツに入社。タスヤードというカフェに配属されました。ホールスタッフをやりながらいずれキッチンに立つ予定が、キオスクというコーヒーショップ担当に」

そんなとき、アメリカ西海岸でジャムを作っているジューン・テイラーが来日することになり、清水さんの英語力が必要となりました。

「展示会で通訳を務めたあと、ジューン・テイラーの商品を担当することに。その頃、当時の社長と話をしているときに、『この会社はインテリアが主体だとわかってはいるけれど、私は食をやりたい。昔から、グロサリーをオープンすることが夢だったんです』と言ったら、『やってみたら?』と言ってくれて」

社員にやりたいことがあるならば、その背中を押してくれるという社風によって、清水さんの夢が急に現実化したのです。

ファインフーズ棚.jpg

「社長と一緒にカリフォルニアへリサーチに行き、たくさんの人に出会って、いくつかの商品をバイイング。それをタスヤードの隣にあるイベントスペースで販売しました」

これが現在のランドスケープ・プロダクツの食部門であるグッドネイバーズファインフーズの原点となりました。約8年前のこと。

「1ヶ月間のポップアップイベントにて、お客さまと実際に話をして、どんなものが喜ばれるのかなどをヒヤリング。その直後、私は第二子の産休に入ったのですが、3ヶ月後に復職したときに、やっぱりこれをお店にしたいなと思って。イベントスペースだった小屋を改装して、グッドネイバーズファインフーズという店名のグロサリーショップをオープンしました」

ファインフーズ.jpg

当時、国内の食品はほぼ取り扱いがなく、ジューンテイラーを始めとしたカリフォルニアの食材と、ランドスケーププロダクツのルーツである鹿児島の食材がメインだったそう。

「パッケージも中身もよいものを探して商材を増やしていったけれど、ある人に『もっと人が見えているものに限定したほうがいいんじゃない?』と言われて、はっとしました。以来、おいしいのはもちろんのこと、それを作っている人をサポートしたいと思えるものしかやらないことにしようと決めたんです」

作り手や関わっている人を応援したいと思う商品を売る。それをコンセプトとしてブレずにやってきたグッドネイバーズファインフーズ。

野菜.jpg

「もちろん売れない時期もあるけれど、そこで品揃えを変えるのではなく、それをどう売っていくのかを考えていきたい。だから一度いいと思ったものは、ずっと取り扱っています」

8年前に比べると世間にはグッドルッキンでおいしい食品がたくさん増え、それを扱うグロサリーショップも増えました。今は小屋を店舗とするのではなく、形を変えてグッドネイバーズファインフーズというブランドを継続しています。

タスヤード.jpg

「グッドネイバーズファインフーズは、会社として食を大事にしようと考えるきっかけになったブランド。弊社が経営しているベトナム料理店、フォー321も、生産者とつながる、季節を大事にするという考え方を継いでいます」

さて、清水さんは仕事を終えて帰宅した後、手早く夕飯を作ります。

「子どもたちの『おなかすいた』コールがすごいから、私の料理はスピード勝負(笑)。だいたい40分以内に作り終えます。それが可能なのは、おいしい野菜を使っているから。野菜そのものがおいしいから、塩を振るくらいでいい。余計な調理は必要ないんです」

生のまま食べる。焼く、蒸す、揚げる。素材を生かした料理が得意な清水さんですが、お味噌汁だけはだしが決め手だと言います。

「だしが出るものを具に使うことが多いですね。うちはお肉をあまり食べないから、お味噌汁にはだしがでるきのこをよく使います」

お味噌汁.jpg

最近、気に入っているのはだしプレッソ。

「サイトやレシピブックに載っているレシピが充実しているので、それを見て作るのが楽しくて。この蒸し暑かった夏は、野菜の焼き浸しをよく作りました。野菜を焼いて、だしプレッソと梅干しを数個バットに入れて、冷蔵庫でひと晩寝かせるだけ」

焼きびたし.jpg

梅干しを入れるのは、前述の野村友里さんがインスタグラムにアップしていた新玉ねぎのスープのレシピを参考にしたのだそう。

「新玉ねぎと梅干しだけのレシピなんですが、なんともいえない滋味深い味わいなんです。梅干しもだしが出るんだなあと知って、焼き浸しにも入れてみたらおいしかった。たくさん作っておけるので、忙しいときも安心です」

一緒に写っているのは、だしプレッソとすりごま、甜菜糖で和えたいちじくの胡麻和えと、お気に入りの京都のお揚げに、だしと薄口醤油をかけてパクチーをのせたもの。

やいづ善八の商品はグッドネイバーズファインフーズでも取り扱っているので、出張先への手土産に持っていくことも多いそう。

清水さん.jpg

「今まではやきつべのだしを贈っていました。味もパッケージも、共に洗練されていて深みがある。特にパッケージは、英語だけでなく漢字も使われていて日本らしさがあるところがいい。アーティストやデザイナーは、必ず反応してくれますね。よく行くサンフランシスコは食の感度が高い人が多いので、みんなもちろんだしについて知ってはいるけれど、日常的にだしをとっているわけじゃない。だから、そのまま使えるだしプレッソは喜ばれるはず。次に海外に行くときには、これをお土産にしようと思っています」

取材・文/藤井志織

プロフィール.jpgプロフィール

Landscape Products取締役。食のブランド、GOOD NEIGHBORS' FINEFOODSのディレクションや、直営のセレクトショップPiliのマネージメント・バイイング、海外アーティストとのやり取りなどを担当。