YAIZU ZEMPACHI LETTER
雑誌や書籍を始め、WEBや広告など、さまざまな媒体で活躍しているフォトグラファーの宮濱祐美子さん。ポートレートからインテリアまで何を撮っても、やわらかな光のなかで美しく魅せてくれますが、特に器や料理の写真に定評が。背景まですくいとるような存在感のある写真は、お茶や懐石料理を習っているから宮濱さんだからこそ、撮れるのかもしれません。 そんな宮濱さんに、日々の食事についてお話をうかがいました。
2年前から、お母さまとの二人暮らし。食事の支度はお母さまがされているとか。
「若い頃にカフェで働いていたこともあり、料理は好きなのですが、一人暮らしだったときはついおざなりになってしまっていて。出張が続くと冷蔵庫は空っぽだし、仕事で疲れて帰ってくる と、ビールときゅうりでいいや、となってしまうこともたびたびでした。今は母が丁寧にだしをと り、和食を中心とした食事を作ってくれるので、本当に助かっています」
忙しい宮濱さんの健康を支えてくれる母の手料理。一人で暮らししていた時期があるからこそ、そのありがたみが身に染みるのかもしれません。
「母は鰹と昆布の合わせだしを常にストックしていて、お味噌汁や煮物、お浸しなどに使ってい ます。今の時期は、うどんやにゅうめん、鍋にも。小学生のときは、毎朝4人分の味噌汁のだしを取るのが私の仕事でした。花鰹を取り出して鍋の蓋にのせて、お玉でぎゅって押して絞るの。だ しが濁るとか言われることもあるけれど、家庭では絞っちゃいますよね」
母の手料理と聞いて思い出すものといえば、毎回味が違う餃子と里芋の煮物、麺つゆ。
「母の麺つゆはおいしいんです。年越そばも冷たい山形そばのせいろと、母の麺つゆ。うちは父が釧路出身なので昆布文化、母は静岡出身なので鰹文化ということで合わせだしなんです。母は やきつべのだしを見て、焼津のものだというだけで気分が上がったそう(笑)」
お母さまがどのようにやきつべのだしを使ったのかと聞いてみたところ、「とっても普通の使い 方です」と宮濱さん。
「旬の野菜とお揚げを使った煮浸しや揚げ浸しが多いかな。家では同じものを食べ続けるのが好きです。あと、母がよく作ってくれるのが茶碗蒸しのような料理。薄口醤油と余った野菜を使うのですが、たまに驚くような内容のときも(笑)」
仕事でもだし料理を撮影することは多いよう。
「最近よく見るのは、水だし派が多いかもしれません。以前、取材先で驚いたのは、昆布を沸騰前にすぐ取り出していて、鰹節もそんなに煮ていないのに、味と香りがしっかり出ていたこと。
いっぽうで、京都のうどん屋さんのだし教室に行った時は、40分も煮出していて、だしの取り方ってまったく違うんだなと。自分好みのだしを取るレシピがあったら楽しいですね」
最近、宮濱家でハマっている鍋があると聞き、教えていただきました。
「湯豆腐のような鍋なんです。やきつべのだしでだしを取り、20分ほど置いて自然に水けを切った豆腐を入れます。ピーラーで薄く削ったごぼうと、短冊切りにした白菜をかるく下ゆでしてから加えるだけ。たまにアサリを加えることも。刻んだネギとかつおぶし、醤油、白だし、酒を混ぜたたれをかけて食べます」
シンプルでとても美しい鍋。具材を下ゆですることで、灰汁が少なくなり、締めのうどんに至るまでだしが濁らないのだとか。白ワインや日本酒と楽しんでいるそうです。
「外食も楽しいけれど、自宅で母の手料理を食べる贅沢も感じています。ただ、私が大切にしている貴重な古い器も、母が日常使いするのでドキドキすることも(笑)」
実は6年ほど、懐石料理を習っている宮濱さん。普段は母に甘えていても、お節料理だけは宮濱さんの腕の見せどころ。
「ミツ肴は必ず作り、お肉はあまり使いません。最近はいかに砂糖の量を減らせるかということを意識したり、黒豆よりも花豆にしたり、自分好みに工夫しています。銘々皿に盛り付けて、お酒 と一緒にのんびり楽しみます」
取材・文/藤井志織
女性誌をはじめ、料理本などの書籍、広告などで活動しているフォトグラファー。
スタジオアシスタントを経て2004年に独立。器や工藝にも造詣が深く、ポートレートから料理、ドキュメンタリーな取材ものまで、幅広く活躍している。