YAIZU ZEMPACHI LETTER
熱烈なコスメ紹介を始め、ストーリーでの人生相談など、エモーショナルなインスタグラムが注目を集めているビューティライターのAYANAさん。紡ぎ出す言葉はユニークで、独特のリズム感を持ち、読む人の心にズンと響きます。主宰している文章講座『エモ文』も、募集人数があっという間に埋まるほど大人気。いったいどんな人生を歩んできたのかと気になっている人も多いのではないでしょうか。
「ファッション写真が大好きで、高校生のとき、母にメイクアップアーティストになりたいから専門学校へ行きたいと相談したら、大学を卒業してからにしてほしいと言われて。それで興味があったインドについて学ぶ文明学科に進みました。週に4コマもヒンディー語を学んだりしていたんですが、結局は就職先に悩むだろうなと。それでバイトして学費をため、シュウウエムラメイクアップスクールに通い始めました」
卒業後もメイクアップスクールに通い、1年後に就職。
「シュウウエムラの新規店のショップスタッフに応募したのですが、そこがオーダーメイドのアイテムを売るという工場内設型の店舗だったため、その担当者が必要で。カラーコーディネーター検定の資格を持っていたので、カラーリストとして採用されました。私はアイシャドウとチーク担当で、100色のカラーパレットを使ったカウンセリングで一つだけのブレンドを作る。すごく楽しかったですね」
ところが26歳の頃、この店舗が閉店。これからはWEBの時代だと感じていたAYANAさんは、ほかの店舗でショップスタッフになるよりも、デジタルの専門学校でデザインの勉強を始めようと考えました。
「ところが、シュウウエムラ氏ご本人から新会社にスカウトされて、学校に通いながら新会社へ転職することに。1年の研修を受けた後、メイクの開発職に就いたんです」
今思うと、これが一つのターニングポイントに。
「化粧品は世界観やイメージを表現する文学的な言語と、狙い通りのものを作るための数学的な言語の両方で成り立っています。企画寄りの開発を担う部署はその中立的なところで、その両方がわかるようになったことが、今も役立っています」
仕事はやりがいがあったものの思うことがあったAYANAさんは、知人の紹介で新創刊の雑誌の編集部の面接を受けることに。
「新雑誌に経験がない人を雇う余裕はないと言われたんですが、ビューティライターとしての仕事をくれるようになったんです。しばらくは2足のわらじで働いていました」
その雑誌のおかげでオーガニックコスメについての知識が深まったAYANAさんは、やがてオーガニックコスメブランドに転職。
「売れ行きが伸びている途上にある小さな会社だったので、ブランドコンセプトやプレスリリースを書いたり、店舗のディレクションをしたり、なんでもやっていました。その後に転職したもう一つのメーカーも急成長している時期だったので、同様にあらゆる仕事を忙しくこなしていました」
そんな頃、東日本大震災が起き、仕事についても見つめ直すことに。
「ちょうど、世の中をよくしたい、世の中の真理をみつけていこうという気持ちを共有できる媒体に声をかけていただき、私も役立てるかなと思って転職を決めました。ところが諸事情で入社できない、ということになってしまい、代わりにフリーのライターとしての仕事をいただくように。コスメブランドで文章を書いていたとはいえライターとしての力はまだまだで、最初の頃は使い物にならなかったと思います」
35歳という歳で、新しい仕事にチャレンジするのはさぞや大変だったはず。
「震災で、今日明日をも知れないという状態のなかでしたから、エネルギーがあったんでしょうね」
フリーランスとしてアーユルヴェーダの先生の書籍を何冊も担当するなかで、ライターとしての力をつけていきました。AYANAさんの文章から、自信がないと悩む人たちへのエールが感じられるのは、こんな体験があってこそなのかもしれません。
「これまでの人生で、未経験のことをやるというタイミングが多くて、いつも『私で大丈夫ですかね?』って言ってる(笑)。本当に環境やチャンスに恵まれてるとしか言いようがないんです」
それから10年が経ち、現在は人気ライターとして活躍するいっぽうで、OSAJIのメイクアップコレクションのディレクターとしても知られているAYANAさん。多忙を極めるなかで、食生活はどうされているのでしょうか。
「料理は嫌いじゃないけど、できればやりたくない。もともと食にすごい興味があるわけじゃない。外見にコンプレックスがあるから、食べること=太ることで罪悪感があったし、ダイエットを気にしているくせにストレスがあると食べちゃって。摂食障害になったこともありました。今はおいしいものも好きだけど、おいしくないと食べたくないってほどのこだわりもない」
プライベートでは2度の離婚を経て、現在は6歳の息子さんと2人暮らし。
「息子は鍋とか大人味のものはあまり食べなくて、みりんとしょうゆと砂糖とだしを使った甘じょっぱい味付けが好き。角煮とか、ハッシュドビーフ、ハンバーグとか。二人きりなので、一緒に食べるものを作るようにはしています。魚焼きグリルがないので、フライパンでできる照り焼きやムニエル、ピカタなどはよく作りますね」
AYANAさん自身は、母親が健康志向だったため、子どもの頃から有機農法の野菜を食べ、稲刈りや田植えを手伝う援農にも参加していたとか。
「当時は嫌だったし、母とも食の好みが合わなくて、カップラーメン食べたいなんて思っていましたね。独立してから自分で料理を作ったり、自分で選んだ店で外食をしたりするようになって、少しずつ食べることの楽しさを知った気がします」
当時、料理を覚えたのは料理本から。
「書店に行っていろいろ見比べてみて、川津幸子さんの本を買ったんです。もと編集者だったという方なだけあって、まず文章が面白い。難しい料理は載っていないし、気取った味じゃない。でも毎日作らなきゃいけない人たちのために、哲学込みで教えてくれる感じもよくて、今でもよく見ています」
料理もやってみたら楽しくて、おいしいものはそれなりに好き、と気づいたAYANAさん。
「でも一人暮らししてたときは、気が向いたときに気合いを入れてカレー作るっていう感じで、食べるものがなければお菓子で満足していたくらい。今はオーガニックフードもジャンクフードもどちらも好きですけど、息子のためには料理しなきゃという義務感がある。栄養バランスもそれなりに考えなきゃならないし、人生でいちばん"食事"を作ってると実感しています」
やいづ善八の製品は、友人にもらって使ってみたのがきっかけで、オンラインショップで購入したこともあるそう。
「朝、昆布のだしプレッソに4:1くらいの割合でお湯を加えて飲むのが好きです。アーユルヴェーダの仕事をして以来、白湯を飲むようになったんです。でも白湯がめちゃくちゃおいしいって感じるわけでもないから、つい面倒になっちゃう。だけどだしプレッソをちょっとたせば、昆布の風味を感じてするする飲めるんです。小さいときにおやつに昆布を食べていたせいもあるのかな。昆布のグルタミン酸が好き。いちばん好きな寿司ネタは子持ち昆布です(笑)」
これまでも、だしパックはよく使っていたそうですが、やきつべのだしは特に気に入ってくれたよう。
「だしパックって、無調味でもなぜだか"だしパック"の味がするんですよ。でもやきつべのだしを使うと、ちゃんと鰹の味がするんです。料理が洗練された味になるので、母が来るときにもよく使います。リーフレットに紹介されているレシピも参考にしています。魚介とズッキーニのだしパスタとか、おいしかった! だし巻き卵も作ってみたらおいしくて、お弁当には必ず使うようになりました」
取材・文/藤井志織
プロフィール
A Y A N A / ビューティライター/OSAJIメイクアップコレクションのディレクター。化粧品開発の経験を活かし、アートやウェルネスの観点からも美容を分析。雑誌やWEBなどの媒体で、ビューティを切り口とした文章を書くほか、ブランドのコピーライティングやプレスリリース、カタログなども手がけている。