YAIZU ZEMPACHI LETTER
雑誌「FRaU」のSDGs号をディレクションしながら、「&Premium」や「BRUTUS」といった雑誌で編集・執筆を手掛けている熱田千鶴さん。プライベートでは高校生と小学生の娘を育てる母でもあり、とにかく多忙な日常を送っています。
日々の疲れを癒すのは毎日の晩酌で、だし料理が好きという熱田さんに、だしへのこだわりをうかがいました。
「よく作る料理は?」と聞いてみたところ、生姜焼きやアクアパッツァと答えてくれた熱田さん。
「本当に簡単なものしか作っていないんです。いつも時間に追われているので、料理の本を見て新しいレシピにチャレンジしようという余裕もなくて。たまに食べたいレシピをWEBで検索して適当にアレンジするくらいで、レパートリーも多くないし」
疲れていても台所に立たなくては、というときのカンフル剤は大好きなお酒。
「作る前から飲み始め、作りながら飲み、食べながら飲み、食べ終わっても飲む(笑)。とはいえ平日は翌日もあるから、ほどほどに。乙類の焼酎にフレッシュな柑橘をぎゅーっと絞って炭酸で割るのが定番です。悪酔いしないし、たいていの食事に合うので」
家事や料理はご主人と協力し合いながらこなしています。
「日本では共働きの家庭でも、母親に家事や育児の負担が多くなりがちですよね。でもそれも本当に大変な仕事だし、少なくとも私は、すべてを自分1人でやるなんて無理。夫とはお互いの仕事状況を相談しながら、娘のお弁当や夕食作りもを分担しています」
熱田さんがよく作るのはベーシックな和食で、ご主人はスパイスを使うような料理が得意なのだとか。
「夫は煮込みや親子丼なんかも上手に作るので、娘たちは喜んでいます。私は初めての料理を作るときは本やネットを見て参考にするけれど、彼はお店で食べたものを自分流に再現できるタイプ。私よりも味をつかむ感覚が鋭いというか、完成をイメージして形にするのが上手なんですよね」
だから市販の合わせ調味料やキットのようなものを使うことはほぼないそう。
「でも私は忙しいときはレトルトがあると助かるし、外食にも頼っちゃう。毎日のことだから、常に全力でというわけにはいかないですよね。手軽にすぐできる、という言葉には惹かれるし、手抜きもするし、テイクアウトも利用する。だけど、だしはなるべく昆布でとるようにしています。鰹節からとるのはちょっと手間がかかるけれど、昆布やあごなら手軽。昆布は取り出さず、一緒に煮込んで食べています」
このだしへのこだわりには、育った環境も影響している様子。
「思い返すと、実家で母がそうしていたんですよね。母の煮物には、必ず昆布が入っていました。
そういう記憶って大事だなと、この歳になって思うんです。だから娘たちにも、ある程度ちゃんとした味を伝えておきたいなと。ジャンクフードに惹かれるときがあっても、大人になって自分で料理をするときには、手作りの料理やだしのおいしさを思い出してほしいなと」
でも完璧を求めても続かないから、そこは臨機応変に。
「毎度、昆布できちんととっているわけではなく、時間がないときは無添加のパックだしや顆粒だしもよく使います。それでもだしをとるのは、味が好みだからかな。だしの味がベースになっていると、手軽な料理でもおいしいと感じるんです。逆にだしを使っていないと、塩や胡椒を加えても味が調わないというか、物足りない気がする」
小学5年生の次女も、自分でうどんを作るときは昆布からだしをとっているのだとか。
「『スープがちゃんとおいしくないと嫌なの』と言っています。そこがうち流なのかな。長女の好物である大根と茄子の煮ものも、昆布でとっただしを使います。最近はそこにだしプレッソを加えて、コクを出すのが好き。奥行きのある味わいになるんです」
合わせだしが好きだから、だしプレッソの使い勝手には大満足。
「よく作る炊き込みふうのしらすごはんも、だしプレッソとあごや昆布のだしを半々で合わせて作っています。だしで炊いたごはんに、さっとゆでた刻み昆布やしらす、しそ、みょうが、細ネギ、ごま、塩を混ぜるだけという簡単なもの。娘たちの大好物です」
熱田家のお弁当に欠かせない卵焼きにも、だしプレッソが活躍。
「うちは甘い卵焼きが好きで、週に1〜2回は作ります。砂糖、酒、だしプレッソ(昆布)がマスト。四角い卵焼き器が欲しいなと思っていたんですが、そうしているうちに丸いフライパンでも上手に作れるようになりました」
だしプレッソは、以前、取材した金継ぎ作家の方に教えてもらって知ったのだそう。仕事での出会いから、料理のヒントを得ることも多いと言います。
「最近は生産者の方々や、料理をテーマにした取材も増えてきて。取材した農家から野菜を取り寄せたり、教わったレシピを作るようになったり。仕事での出会いを暮らしに取り入れるようになってきました」
仕事に育児にと駆け抜けてきたけれど、娘たちの成長も感じるこの頃。
「子どもが幼い頃とは手のかかり方が変わってきたけれど、育児が少し落ち着いてきたという実感があります。今後はまた書籍を出したいし、そろそろ海外での取材も再開したい」
最近、カメラを購入したため、今回の写真も熱田さんが撮影してくれたもの。
「フォトグラファーやスタイリストなど、みんなでページを作るという作業もとても好きなのですが、自分で写真を撮って文章を書いて編集するという仕事もやってみたいなと。なにかを形にして伝えるために考える、という意味ではなんでも編集仕事だと思うので、メディアに関わらず、いろいろチャレンジしていきたいと思っています」
取材・文/藤井志織
編集者。SELF-TITLED PRESS代表。講談社『FRaU』SDGs号のクリエイティブディレクター、チーフエディターを務め、これまでにMOOKを含む11冊を手がけるほか、機内誌のディレクション、マガジンハウス『&Premium』の編集など、旅やライフスタイル系メディアを中心に、雑誌、書籍、webなどの企画、編集、執筆に携わる。主な書籍に『LIFECYCLING』(PIE International)『柚木沙弥郎 92年分の色とかたち』(グラフィック社)他、共著に『柚木沙弥郎のことば』(グラフィック社)。