YAIZU ZEMPACHI LETTER
京都育ちの食いしん坊が追い求める本物のおいしさ
滋賀県の琵琶湖の近くで「料理教室 麻」を主宰している麻 育子さんは、京都生まれ、京都育ちの食いしん坊。近年、「食」に関わる人たちのあいだで、「美しい料理をつくる人」だと話題になっている麻さんですが、実は料理を仕事にしたのは50歳ごろという"遅咲き"のスタートだとか。今回は、そんな麻さんと料理についてのお話です。
麻さんが主宰している料理教室では、だしの丁寧なひき方についても紹介しています。
「うちのだしは昆布と鰹が基本で、たまに干ししいたけやいりこも使います。2回分くらいをまとめてとることが多いですね。鰹節は、本枯節を自宅で削っています。慣れたら大変なことではないんですよ。1リットルのだしなら1〜2分で削れちゃう」
削り立ての鰹節を使うと、少量の塩を加えるだけで十分なくらいにおいしいのだと言います。料理教室の生徒の方々も、味見をすると驚くほどだとか。
「鰹節は信頼している包丁屋さんに教えてもらって、漁師を指定するほどこだわっている鰹節屋さんから買っています。そこで買うときは、どんなおだしをひきたいかと聞かれるんです。地方によっても好みが違うし、ときどきパンチがあるものが欲しいときもあるし」
同様に、昆布も自身が昆布漁まで行くようなお店のものを愛用中。
「上質な鰹節と昆布だから、二番だしまで大事に使います。だしを取った後の昆布は小さく切って乾燥させておき、たまったら塩昆布を炊くことも」
だしについてのこだわりからも伝わってくるように、麻さんの料理は本物志向。
「でもスタートはすごく遅くて、料理の仕事をしようと思ったのは50歳の頃。まだ10年ほどのキャリアなので、61歳の今も駆け出しです(笑)」
もともと料理が得意だったのは、育った環境によるところが大きいそう。
「家族がみんな食べることが好きで、特に父は味にも盛り付けにも厳しい人でした。そんな父のために、母は毎日、いろいろなおかずを作って1品ずつ出していました。気に入らなかったときのために2軍のおかずも用意していたほど」
そんな厳しいお父さまは、若かりし頃の麻さんが料理を出しても、おいそれと認めてはくれませんでした。
「だからこそ、父が喜んでくれると、すごく嬉しかったですね。年に1〜2回、祇園の天ぷら屋さんに連れて行ってくれるのですが、そこでも『ああ、おいしかった』で終わらせてはいけません。『香のものがどんなふうに切られて盛り合わせられているのか、勉強したか?』というわけです」
そんなお父さまに影響を受け、麻さんの舌や目は育っていきました。
「料理は好きだったけど、まさかそれを仕事にするとは思ってもいませんでした。今の家に越してからは、たまーに友人たちに料理教室を開いていましたが......」
ところが10年ほど前、仕事が必要な状況に。
「職安に行ったり、働きたいと思ったところに直談判したりしたんですが、たいした経験もなく語学が少しできるくらいで、好都合な仕事が見つかるわけもないんですよね。そうしたら、仲良しの友人に『今からどこかに勤務したところで、60歳で定年。たまの休みに料理教室でも、なんて思ってるかもしれないけど、働き始めたら週末に体力は残らないと思う。甘く見るな』って喝を入れられたんです。あなたには料理という特技があるんだから、それをなぜ使わないのかと。それで、料理教室を頑張っていこうと決心しました」
とはいえ料理が得意だといっても、免許を持っているわけでも、経験があるわけでもない。確固たる自信が持てていなかったと言います。
「友人知人には料理のプロが多かったし、こんな私が料理教室をやります、なんて言えなかった。先生って呼ばれるのも居心地が悪かったんです。そうしたら同じ友人に、またしても叱られました。『お代をいただくということはプロということなのだから、謙遜することは失礼』だって。それで少しずつ宣言するようにしたら、生徒さんも集まるようになってきて」
幼い頃から鍛えられてきた味覚や技術こそが才能。桃の冷製スープ、豆のスパイスシロップ漬け、自家製味噌、梅のピクルスといった麻さんの定番料理からは、独自のセンスが想像されます。
「お味噌教室は、私のライフワークのようなものですね。昨年習った人も、おいしいからとまた来るんです。豆板醤や甜麺醤のレッスンもあります。自分で作ると市販品とはまったく違う味わいに感動しますよ。ごはんやお豆腐にのせるだけで、立派なひと品になりますから」
教室のメニューは毎月変わるので、考えるのもひと苦労。
「夏の定番といえば、桃の冷製スープ。最初は京都の好きなフレンチレストランで食べて感動し、レシピを教わって作ってみたんです。それをもとに、だんだんレシピをアレンジしていきました。チキンブイヨンや生クリームを使うフレンチメニューだったのが、今は牛乳も使わずに昆布だしを生かしたすり流しのような料理に」
今では、フランスで和食料理教室を開くことも。レシピ監修や出張教室の仕事も増えていますが、今後は調味料の販売なども視野に入れていきたいとか。「調味料は買うのも作るのも楽しい」という麻さんに、やいづ善八の深み鰹白だしとやきつべのだしを使ったレシピを教えていただきました。
「白だしで、即席のお漬物を2種類作りました。ひとつは白菜を細切りにして、削った鰹節と昆布を重ね、上から塩を振って、水で希釈した白だしと米酢をかけてひと晩置いたもの」
「もうひとつは、大根の葉っぱと白菜を刻んで塩もみし、種を取って大きめに切った柚子と合わせ、水で薄めた白だしをかけてひと晩おいたもの。唐辛子を入れてもいいですね」
どちらもサラダ感覚で食べられるそう。
そしてやきつべのだしの荒節では、根菜の白みそグラタンを。
「白みそ50gを50ccのだしでのばしてソースを作ります。塩と酒で下味をつけた鶏肉をオリーブオイルで焼き、根菜は固いものはちょっとゆでてから一緒に炒めます。耐熱皿に入れて、そのソースをかけ、柚子のスライスをのせてオリーブオイルをかけ、200度のオーブンで25分ほど、野菜が柔らかくなるまで焼きます。柚子は金柑でもいいかも」
「チーズをのせてもいいけれど、なしでもあっさりとしていておいしい。だしは濃いめにとるほうが合うと思います」
根菜は、菊芋2個、里芋2個、長ねぎ1本、にんじん1/2本、れんこん2cm、ごぼう10cmを使用したそう。カリカリになった柚子がアクセントに。根菜が旬のうちに、ぜひお試しを。
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