• だしと私 2024.10.02

vol.54 「ほぐれおにぎりスタンド」主宰 橋本英治さん

口の中でほろっとほぐれる、お米のおいしさを伝えたい


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日本人のソウルフードというと思い浮かぶもの。きっと多くの人が「おにぎり」や「味噌汁」と答えるでしょう。そこで今回は、おにぎりの握り手として活動する「ほぐれおにぎりスタンド」の橋本英治さんにお話しをうかがいました。


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おにぎりは日本人にとってのソウルフードでもあり、仕事中やイベントでも手軽に食べられるファーストフードであり、近年は海外でも人気を集めています。2018年から、そんなおにぎりを軸に活動している「ほぐれおにぎりスタンド」。

「先見の明なんて言われますが、マーケティングなんて全く考えたこともありません。もともと料理好きだったわけでもない。前職はベンチャー系の会社で、社長のお人柄に惚れて働いていました。でも1年ほど経ったとき、ふと、自分で人生を決めていないことに気づいてしまったんです。このまま世間の流れに沿って働いて結婚していくのかなーって思ったら、いきなり窮屈になってしまって。ならば自分が表現したいことってなんだろうと考えて、好きなものをとにかくノートに書き出してみました」

そのなかでピンときたのがお米でした。かといってすぐに形になったわけではなく、五里霧中の数年が続きます。

「お米に取り組んでいる人って、あまりいないなと思ったんです。社会経験もあまりないけれど、人があまりやらなさそうなことがやりたかった。食べることは好きだし、人にもその体験を提供したい。そこで土鍋でおいしく炊いたご飯をマーケットに出店したり、バイトでお金を貯めてはお米農家さんを訪ねて車中泊の旅をしたりということを6年ほど続けました。まったくお金にならない、暗黒時代です(笑)」

当時、ユニットを組んでいたパートナーとは毎日のように銭湯に行き、アイデアを出し合っていたそう。そんななか、イベントでおにぎりを握る機会が訪れます。

「僕は佐賀県出身なんですが、佐賀県のお米を東京でPRするというイベントの企画が知り合いを通じてやってきたんです。PRするには、ただ炊いて出すだけではだめだろう、自分だったらどういう食べ方がしたいかなと真剣に考えました」

そこで思い出したのが、小さな頃から口の中でほろほろとお米がほぐれるのが好きだったということ。

「アレだ!アレを提供したい!と思いました。そのためには、目の前でふわっと握って、すぐに食べてもらえばいいんだって。そしたらお客さまのリアクションが、これまでとがらりと変わったんです。屋台の感じも楽しくて、スイッチが入った瞬間ですね」

波に乗ったのか、次に来た仕事も"背伸び案件"。

「どこかのイベントで名刺を渡した方から、クリエイターを300人ほど集めたクローズドのイベントをやるから、前菜、主菜、デザートのケータリングをやってほしいと連絡が来たんです。什器から作って精一杯取り組んだら、無事成功。そこから仕事がたくさんいただけるようになりました」

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以来、目の前の案件に真剣に取り組んできて7年が経ち、今や押しも押されぬ人気出張料理チームに。そんな今でも、米農家を訪ねる旅を続けているそう。

「おいしいお米と出会うために、時間をつくっては訪ねるようにしています。契約している農家さんのところに、田植えのお手伝いに行くことも。佐賀のさがびよりをよく使っていますが、新潟のこしひかりや、富山のミルキークイーンを使うことも。お米の種類によって使う鍋や水加減を調整するのも面白いんです」

「ほぐれおにぎりスタンド」の定番といえば、「はちみつ梅おかか」や「極め白」ですが、イベントのテーマによっては天むすを握ったり、パックおにぎりを出したりすることも。

「冷めても味わいがあるものを、ということでだしでご飯を炊くこともあります。お米に鰹と昆布のだしとお酒、薄口しょうゆ、みりんを入れて。天むすにも、だしご飯は合うんですよね」

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やいづ善八のつゆプレッソを入手して、まず作ったのは、とうもろこしの炊き込みご飯。

「お酒とお水とつゆプレッソ、とうもろこしは芯やヒゲも入れて炊きました。普段は出来合いの調味料を使うことはないけれど、これなら手軽でおいしくていい。料理に不慣れな人でもおいしいご飯が炊けると思います。深み香るだし醤油で卵の黄身を漬けたのも、おにぎりの具に最高! さくさく鰹ふりかけもいいですよね」

だしは料理の基本とも言いますが、実は料理の修行をしてこなかった橋本さんにとって、しばらくの間、だしは遠い存在だったのだとか。

「学生の頃は当たり前のようにうま味調味料を使っていたし、おかずにソースや醤油をべったりつけて食べていました。はっきりした味が好きで、だしのおいしさなんて考えたこともなかった。だしパックすら使ったことがなかったから、煮出すだけで本当に味が出るのかなって(笑)」

おにぎりの仕事を始めてから、だしでお米を炊いたり、おにぎりの具やお味噌汁を作るのにだしをとったりするようになって、食材が持っているだしのおいしさに気づいたのだとか。

「だしは料理の味わいのベースにもなるし、掛け算にもなる。本当にいろんな表現ができるんだなと、今はしみじみ思います。以前、いただいた大分の椎茸で海苔の佃煮を作ったときは、しいたけのだしの美味さに開眼! これは東京にただ暮らしているだけでは、辿り着けない味だと驚きました。とはいえ、だしの使い手としては、まだまだスタートラインという感じです」

伸び代がいっぱいの30代。いつかは海外出店を、という夢も膨らみます。

「イベント出店のために何度か訪れたことのあるカリフォルニアで、現地の人たちが握るおにぎりショップを出したいなと夢みています。アメリカと日本の水の違いはありますが、僕たちがおいしいと思う味が受け入れられることは実感しているんです。ローカルフード文化がある土地なので、どんなおにぎりができるかな、と考えるとワクワクしますね」

お米やおにぎりへの探究心は留まることなし。「仕事が面白くて楽しくて夢中です」と話す橋本さん。今後も「出張ほぐれおにぎりスタンド」から目が離せません。

取材・文/藤井志織

プロフィール

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橋本英治
ほぐれおにぎりスタンド主宰。実店舗は持たず、出張おにぎり屋として国内外へ赴く。ポップアップイベントやフェスを始め、ライブ楽屋や撮影現場などで握ることが多い。おにぎりの賞味期限は"5秒"。「トロたく」や「大葉にんにく醤油」「鶏ひき肉味噌」など、具材のバリエーションは30種類以上。米や海苔、調味料、鍋のこだわりを聞けば、話が止まらない。趣味はホラー映画鑑賞。