YAIZU ZEMPACHI LETTER
"だし"というと、多くの日本人が意識せずに使っている存在であり、こだわり始めればどこまでも極めていけるものでもあります。
忙しさに追われる現代はだし離れと言われて久しくもありますが、「もっとだしのおいしさを広めたい」「気軽に使えるだしアイテムを知っていただきたい」。そんな想いから、手軽に使える鰹だしパックや液体だしを販売してきたのが、鰹だしの老舗メーカーである〈マルハチ村松〉が運営するブランド、〈やいづ善八〉。ブランドがスタートしてから早くも5年が経ち、愛用者のみなさまへの感謝をお伝えすべく、去る6月17日、だしの料理教室を開催しました。
講師は、ブランド設立以来、レシピを提案いただいている料理家の冷水希三子さん。〈マルハチ村松〉の創業地や直営店である〈浜通り店〉からほど近い〈帆や〉を会場にお借りし、クラシカルな雰囲気のなかでのなごやかな会となりました。
冷水さんのデモンストレーションは、まず、鰹のだし茶漬けから。5年前に提案していただいた「だし茶漬け」はオフィシャルサイトにも掲載されているイチオシのレシピですが、この夏にご提案いただいたのは鰹のヅケを使うバージョン。
「おいしいだしを家庭で簡単に出せるだしパック、やきつべのだしを利用したレシピなので、とっても簡単にできますよ。鰹のお刺身からもだしが出るので、それを邪魔しないよう、繊細な風味が特長の枯節を使います」
やきつべのだし(枯節)を200mlの水に1パックと梅干しを入れて中火にかけ、沸いてきたら弱火にしてゆらゆらと煮出すこと10分。
「梅干しは鰹の生臭さを消してくれるし、梅からもいいだしが出るんです。夏は特に梅干しの酸味や風味がおいしいですから。梅干しの風味を出すために加熱したいので、だしパックと一緒に煮出します。鰹のお刺身が手に入りにくいときは、たたきでも大丈夫」
梅干しは田舎漬けと言われる、塩分15%前後の昔ながらのものがおすすめだとか。そのほかに、冷水さんが愛用している調味料も紹介していただきました。
薬味は、万能ねぎ、わさび、刻みのりをご用意。
「薬味はお好みで足し引きしてください。面倒くさいかもしれないけれど(笑)、錦糸卵はぜひ入れてほしいですね。錦糸卵がごはんにからむことで味のバランスが整うんです」
「こだわるなら卵液を一度濾すときれいな仕上がりに」「焦げそうになったら弱火にするよりもフライパンを火から離すといい」といった錦糸卵を作る際のポイントもご紹介。
「焼いて細切りにしてから、お箸でよく混ぜて空気を含ませるのもポイントです。ちょっとしたことなんですけど、こういう細かいことの積み重ねで料理っておいしくなる」
あとは切った鰹を合わせ調味料に入れて混ぜ、30分くらいおくだけ。調味料が染み込み、少し身がしまるのを待ちます。
「漬けてすぐだと表面にしか味がつかないので、30分~1時間くらいは浸けておきたいところ。鰹は薄切りではなく角切りがいいんです。ごはんと一緒に食べるときに口のなかにさらさらと入るし、薄切りよりも表面積が増えるので、30分ですぐに味が染み込むから」
お椀にごはんをよそい、鰹をのせて薬味をたっぷり添えます。これに青菜の和えものでもあれば、充分な献立。さっと済ませたいお昼ごはんにも、前夜に食べ残したお刺身を浸けておいて朝ごはんにも。
「だしパックは絞るとえぐみが出てしまうので、引き上げて自然に水気をきります。だけど、ちょっともったいないなって思いますよね。私は引き上げただしパックをゆでた青菜にのせておくことも。すると、青菜にちょっと風味がついて一石二鳥なんです」
最初はヅケ丼で楽しんで、途中でだしをかけるのもよし。
「わさびに熱いだしをかけると風味が飛んでしまうので、鰹をめがけて注いでくださいね。私はおだしたっぷりが好み。お米がふやけないように、食べながら少しずつ注ぎ足すのもいいですよ。煮た梅干しもおいしいので、一緒に食べても」
さて次は、静岡で生まれた高糖度トマトであるアメーラトマトを使った一品、"アメーラトマトとわかめのだし浸し"をご紹介。
「トマトはだしで炊くと柔らかくなりすぎるから、お浸しにするのがおいしいなと。鰹の風味はほんのりでいいので、控えめな枯節を使います」
だしを煮出しながら、やいづ善八の商品について想いを語る冷水さん。
「こちらのだしパック、ちょっと煮出しすぎてしまっても濁らないんです。だしの濁りって、おそらく鰹節の油分。昨日、生産工場を見学させていただきましたが、上質な鰹節は油分がない鰹を使うのが条件なんですよね。油分は酸化の原因にもなるけれど、自然のものだから個体差がある。やいづ善八さんは、3ヵ月分の原料をストックしているから、鰹の状態によってブレンドして、安定した味になるよう調整しているんですって」
おいしさの背景を知って納得したと話しながら、沸いただしに、昆布と実山椒を加えます。
「アメーラトマトは皮が厚いので、切り込みを入れてから湯むきすると、口当たりがよくなりますね。熱々のだしをかけると、ほんのり火が入りながらもフレッシュなトマトの味と、だしの味が混ざり合っておいしいんです」
塩抜きしたわかめと、皮を湯むきしたトマトを椀に盛り、調味料を加えただしを注げば完成。
アレンジとしては、わかめの代わりに塩ずりしただけの生のオクラを加えたり、豚しゃぶと合わせてもボリュームを出したり、さっとゆでたおかひじきを足したり、オリーブオイルをかけたり。実山椒の代わりに花椒を入れ、食べるときにごま油を少し垂らしたりしてもおいしいそう。
「できたてよりも、だしとトマトが仲良くなる翌日のほうがおいしいから、ひと晩寝かせて冷やしておきましょう。これをそうめんのぶっかけにしてもいいので、たくさん作っておくのもおすすめ。味がどんどん濃くなっていきますが、3日目くらいまでおいしいはず。最後は刻んでソースにしても」
そして最後は、メインディッシュになるアジのフリット。2022年の夏に公開された新作レシピです。
「鮎やキス、蛸など、旬の魚介でアレンジしてもおいしいですよ。きゅうりは皮ごとすりおろすと濃い風味になるので、それに負けない荒節を使います。使う量は少しなんだけど、だしを入れるだけで魚に寄り添う味になる」
このイベントでは、焼津が誇る鮮魚店〈サスエ〉で仕入れた立派なアジを使用。
「きゅうりのソースは薄味なので、アジの下味はきちんとつけましょう。衣は強力粉と上新粉を使いますが、上新粉がなければ米粉や片栗粉でもOK。さらに炭酸水で溶くと、よりカリッと揚がります。飲んでいるビールを使うと、コクのある味に」
アジにはたいた粉が落ちて衣がかたくなってきたら、炭酸水を少し足して調整を。
「使う粉にもよるので、衣の分量は目安です。柔らかいけれど、さらさらしてない状態にしてください。パンケーキの生地よりゆるいくらいですね」
皮面をボウルの端でかるくこそげながら、熱した揚げ油の中へ。
「皮面の衣は薄いほうが、皮自体に火が通って臭みが消え、パリッと仕上がります。アジは揚げ油の温度が下がらないよう、2枚ずつ揚げましょう。油に入れてすぐに混ぜると衣がはがれてしまうので、しばらく我慢。表面がかたまってきたら、菜箸で触っても大丈夫」
油から上げたあとは、網の上へのせて油をきります。紙に直接おくと蒸れてしんなりしてしまうので要注意。
「箸で持ち上げて、揚げ油の上の熱気にしばらくあててから網に上げると、からっと仕上がりますよ」
きゅうり酢を添えれば完成です。
「新生姜を千切りにしたりすりおろしにして添えてもいいし、穂しそやすだちもよく合います。シンプルな料理なのでアレンジがきく。まずはレシピ通りに作ってみて、あとは自分でアレンジしていけば家庭ごとの味になりますね。それが料理の楽しみだと思います」
試食タイムには、「トマトがおいしくて、一瞬でなくなりました!」「きゅうりをすりおろすなんて、考えたことなかったけど、夏は安くておいしいからたっぷり使えていいですね!」などと、お客さまと会話が弾みました。
「やきつべのだしはきれいな味わいで、料理の良い裏方になってくれるんです。和食だけでなく、中華にもいいし、オリーブオイルにも合う。すごく丁寧に作られた上質な鰹節の味を、私たちはだしパックを煮出す数分だけで味わえる。ありがたいですよね」
と冷水さん。教えていただいた旬の食材と鰹だしの楽しみ方は、すぐに真似できることばかり。ぜひ、みなさまもお試しくださいね。